詐欺師になるしくみ

数学科の院生の進路として詐欺師という選択肢があるという噂を聞いたことがある。確かに,頭の良さを活かせる職業ではあるし,「社会の役に立つ」ことにこだわらない面でも数学科(のステレオタイプなイメージ)っぽい。まあ,そんな風に噂を聞いたときには感じたものだが,別の理由を思いついてしまった:「純粋な(社会)貢献をすることを諦めるなら,純粋な詐欺をしたくなるのではないか。」

ところで,仕組債というものがあることを最近知った。例えば,「年利3パーセント,2年契約,円・豪ドル・NZドルのいずれかでお受け取り」みたいなやつ。当然ながら,受け取る通貨を選ぶ権利はない。線形論理のresource interpretationで「100円⊕1ドル」の方。

経緯はというと,海外出張する予定があり,その前に外貨口座を開設してSony Bank WALLETを使おうとかいう感じ。私の場合は手数料が安いことが目的だけど,「外貨預金といえば資産運用」みたいなノリを感じたし,普通の銀行でも色んな取引ができるらしい。近況報告はおしまい。

話を戻すと,いかなる手口で素人にオプション取引させていたかを知った。金融のことは素人だが簡単に解説すると,大きな価格変動のリスクを負担することを見返りに支払われるオプション料を「金利」にすれば,「リスクはあるけど高金利」みたいに宣伝できるらしい。定期預金との違いが分からない人が大損したりして社会問題になるのも納得だった。確率論はそれなりに勉強して,確率過程の簡単な計算ができるようになっている目でオプション取引を眺めると,「こんなの素人に見積もれるわけがあるか」って思う。確率が直感にあわないことは結構あるし,確率論を完全に理解していても経済の知識がないから更なる落とし穴もきっとある。

すでに述べたようにプレミアは難しい。難しいものと関わりあいたがる人は少ないが,難しさを隠してしまえば売りやすい。別の例を挙げよう。

ある種のPCゲームは発売から1週間もたたないうちに中古品が半値で出回っていたりする。そうなってしまうと新品の売り上げが落ちるということで,メーカーはいかに予約購入してもらうかということに力をかけているらしい。ここで売りにくいのは新品プレミアであって,これに予約購入するリスクと予約特典を加えると,一層複雑になるにもかかわらず最難所の「新品か」の部分からは意識がそれるので簡単に見える。

難しさを解決するために,いろいろ加えて難しさを薄めるというのが常套手段なのだろう。まったく気に入らないことだが。別に,「困難に立ち向かえ」という言葉で指し示される内容のことを言いたいのではなく,ただ,「難しいものは嫌い」と言っている人たちが,実は,より難しいものを好き,ということが残念だ。「本当に難しいものはどこにもない」と言いたいのでもない。何かを足して解決することがあるとすれば,難しさを閉じ込めて管理することだという思いがあるだけだ。